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ハンディもあるけど夢もある


初めて教えたえりなちゃんと
 

 

 僕は生まれつきの脳性マヒで、1種1級の身障者手帳を持っています。僕の究極の夢は「障害者も含めて、全ての人間が暮らしやすい社会をつくっていくこと」です。これから、二回にわたって、今までやってきたこと、これからやろうとすることを書いていきたいと思います。 

 

初めて障害を認識した 

 

 1995年、9月下旬。山形大学教育学部に入学して半年が過ぎ、キャンパス・ライフと念願だった1人暮しに慣れ、ボチボチとアルバイトをやろうかなぁと思っていました。その時に真っ先に浮かんできたものが家庭教師。今考えれば、なぜか分からないけど、その時はピピッときました。"一度、子どもに勉強を教えたいなぁ。きっと、楽しいだろうな"と考えれば考えるほど、気持ちが大きく膨らんでいきました。ところが、近くの家庭教師斡旋所に行ったら、斡旋してくれませんでした。 

 

「子どもはあなたの言葉を聞くことができますか…こちらの信用問題があって、君のような人間を斡旋して信用を損ねたら、どうするのですか」 

 

 言語に障害があることと、信用問題で履歴書も受け取ってもらえないで帰されました。 

「なんで」という「?」マークになりましたが、今まで何度もこのような経験をしてきたので、別に傷つきませんでした。今度は友だちと一緒に行こうと考えていました。初めは拒む相手も自分の気持ちを何度も繰り返し伝えていくことで、相手にわかってもらって、結果的にやりたいことをやってきました。しかし、これまでのようにはいきませんでした。 

" 障害があると、家庭教師はできないのかなぁ。オレはみんなと同じ大学生なんだゾ"とやり場のない悔しさを噛み締めていました。自分は身体に障害があることは知りつつも、「障害があるって、こんなことなのかなぁ」と社会から教えられたような気がしました。 

 

かけがえのない仲間 

 

 何度も何度も家庭教師を諦めようとしました。実際に諦めることは簡単。だけど、自分の気持ちにウソをつくことができませんでした。自分の気持ちに向き合おうとすればするほど、苦しくなっていきました。すると、不思議に「この気持ちを友だちと聞いてほしい」と思うようになりました。 

 

 「家庭教師のことで、話を聞いてほしいから、放課後、学生会館に集まって」 

 

 大学2年の4月。友だちに呼びかけ、14人の友だちが集まってくれました。仲の良い友だちには相談にのってもらっていたけど、このように呼びかけをして話を聞いてもらうことは初めてのことでした。山形市内の斡旋所を何度も訪ねても斡旋がない事実を話して、苦しい気持ちと家庭教師をやってみたい気持ちを伝えました。感情的になり、うまく伝えられたか分からないけど、このときから週1回のペースで話し合うことになりました。そして、6月の下旬。ビラを作って、街頭で配ろうということになり、 

「家庭教師やります」と書いたビラを街頭で配りました。「友だちだもんな」「困ったときはお互い様だよ」かけがえのない仲間とともに、僕の気持ちが大空へ羽ばたいた瞬間でした。 

 

子どもを通して、親が変わる 

 

 小学校2年生の白鳥えりなちゃんは僕の初めての教え子です。彼女のお母さんがビラを見て、初めて電話をかけてくれました。両親とえりなちゃんと会いました。「夏休みの期間、えりなの家庭教師をお願いしたいのですが……。あなたのビラを見て、家庭教師に対するあなたの熱意が十分に伝わりました。それにかけてみようと思いました……。ただ、あなたの言葉、えりなは理解できるかしら」 

 えりなちゃんはそんな両親の心配を吹き飛ばしてくれました。正直にいって、僕も不安な気持ちがありました。でも、飾らず、隠さず、ありのままの姿で接していきました。初めは戸惑っていたえりなちゃんもお互いに打ち解けてくると、自然なやりとりができるようになっていきました。僕は字を書くことが困難なので、言ったことをえりなちゃんに書いてもらいました。このような教え方でも、えりなちゃんは嫌がりませんでした。懸念だった僕の言葉も両親以上の理解者となりました。この光景に両親は「えりなにこんな一面があるとは…」と優しいまなざしで、えりなちゃんと僕とのやりとりを見守っていました。初めは漠然としていたけど、家庭教師をやってみて、このことを僕は伝えたかったのだとはっきりしてきました。 

 えりなちゃんを初めとして、大学時代、9人の子どもの家庭教師をしました。どの家庭もこんな感じで、それを思うと、僕は大きな期待を抱いてしまうのです。 

 


当時高校1年生のかおりちゃんと
 

 

【新しい生き方・つながり発見マガジン カンパネルラ VOL.3】
 



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